小樽商科大学 グローカル戦略推進センター 産学官連携推進部門長 李 濟民 氏
「食の価値づくりと観光」
世界全体の国際交流人口（外国人旅行者）の数は2020年で約16億人となる予想であり、全体の成長率が増加の一途をたどる中、アジア・太平洋地区の成長率は約6.5％と高く予想されている。観光分野における世界競争力は、日本は年々順位を上げ、2015年に9位となりアジアトップとなった。
日本ではビザ緩和や免税制度の拡充を行うことにより訪日外国人旅行者数を増やし、2030年にはフランス・イタリアに次ぐ世界第３位の外国人旅行者数を目標としているが、観光産業の発展にはリードする人材が必要となり、人材育成が急務となる。そのため、観光庁では各エリアの大学と協力し、旅館ホテル経営者の育成事業として講座を開講し、観光産業の中核を担う人材を育てている。
また、北海道の観光動向としてはアジアの観光客が多く、中国が最も多いが、近年韓国と北海道を結ぶ格安航空（LCC）が増え、北海道人気が高まっている韓国の観光客数の伸びが大きい。
観光資源として食に焦点を当てると、小樽しりべしは水産・農産食材や日本酒、ワイン、ウイスキーなどのアルコール飲料が揃っており、この近隣ですべて賄えるが、北海道全体で見ると、コンテンツはたくさんあるが「ここでしか食べられないもの」というものがない。食の価値づくりは観光客が来てくれているときにやらなければならず、一度チャンスを逃すと難しい。
食の価値づくりとして、ガストロノミー（食と文化、美食学）をイタリアを例に学ぶ。
ガストロノミーとは食文化のことであり、イタリアでは一部の富裕層のみではなく、多くの人々が安心・安全にイタリアの伝統・文化などの付加価値を有した製品を手にできるよう、食品の販売から食育へとつなげる青空市場を集結させた「EATALY」や、ファストフードに対して唱えられた、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す社会運動の「スローフード」、世界初のガストロノミック・サイエンス（食科学）を専門とする大学「食科学大学」の開校など、様々な取組を行っている。また、スペインのサン・セバスチャンでは地域のコミュニケーションの場所などとしてバル文化があり、各店はお互いに料理を教え合い、情報共有することにより質の高い「本物」の食文化を築いているほか、バスク地方には世界の有名シェフによる講義を行い、料理をすることが大学資格として社会的地位を持つことができるよう、美食に関連する食科学を学ぶバスク・クリナリー・センター（BCC）を開設している。サン・セバスチャンはバスク文化・伝統として美食に誇りを持ち、街全体で食べに来てくれた人への感謝の気持ちとして「本物のおもてなし」を行っている。
日本の和食はユネスコの無形文化遺産に登録されており、現在「食」への研究に対する環境整備が進められている。
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